【登場人物】
小鳥遊美桜(たかなしみおう)♀・・・女子高校生。1年生。碓氷の写真に心惹かれ、作品の手伝いをするようになる。
碓氷優那(うすいゆうな)♂・・・男子高校生。2年生。美桜の先輩。物静かでかなり天然。写真を撮るのが趣味で主に風景写真を撮っている。その実力は何度もコンクールで賞を取るほど。
【ストーリー】
みN:初めてその風景を目にした時から、私は心を掴まれていた。先輩の映し出す世界は、とても優しくて温かかった。
(BGM)
み「タイトル、木漏れ日の雨……か。これ、多分学校の裏庭だよね。この前先輩、写真撮ってたし……。凄いなぁ、なんでこんな幻想的になるんだろう。」
ゆ「……ねぇ」
み「はい?……え?!碓氷先輩?!」
ゆ「え、俺のこと知ってるの?」
み「あ、は、はい!知ってます!」
みN: 碓氷優那。その名前を知ったのは今年の春。コンクールで入賞したと、学校の廊下に飾られたそれは、夕暮れに照らされた、小さな公園の写真。見慣れた風景なはずなのに、全く知らない世界がそこには広がっていた。その写真を見た時から、私は、たびたび先輩の写真が飾られる展示会に足を運んでいる。
ゆ「……先輩ってことは、君、一年生?」
み「あ、はい!1年の小鳥遊美桜です!」
ゆ「小鳥遊さんか。君、いつも見に来てくれてるよね」
み「ふぇ?!なんで知ってるんですか?」
ゆ「いや、展示会でよく君のこと見かけてたから」
みN:気づかれてたなんて、恥ずかしい///
み「学校の展示会で碓氷先輩の写真を見た時から先輩の作品が大好きで……それで……」
ゆ「そうだったんだ。ありがとう」
み「……」
ゆ「……」
み「……えーと、碓氷先輩??」
ゆ「何?」
み「そんなに見られると恥ずかしんですが……」
ゆ「ねぇ、小鳥遊さん」
み「え、はい?」
ゆ「お願いがあるんだけど……」
み「お願い、ですか?」
ゆ「写真のモデル、やってみない?」
み「写真の……モデル?!私がですか?!」
ゆ「そう、モデル。初対面でこんなこと頼むのもどうかとは思うんだけど……」
み「いやいやいや、なんで私なんか?!」
ゆ「俺の写真、好きだって言ってくれたし、よく見に来てくれてるから、イメージ伝えやすいかなと」
み「でも、他にもっといいモデルさんいますよ?!」
ゆ「小鳥遊さんがいい。小鳥遊さん見てたら作品のイメージが湧いてきた。ダメ、かな?」
み「うっ、だめ、じゃ無いですけど……」
ゆ「……ほんと?」
みN:先輩の瞳はとても澄んでいて、まるで先輩の撮る、風景みたいに美しかった。
み「あぁもう!わかりました!!お手伝いします!!だからそんな目で見ないで!!」
ゆ「え?そんな目って?」
み「……なんでもないです」
みN:こうして私は、碓氷先輩の作品のお手伝いをすることになった。
--- 間 ---
ゆ「モデルっていっても、人物写真とは違うんだ。風景の一部みたいな、そんな感じでさ。ねぇ、小鳥遊さん。ちょっと向こうまで散歩するような感じで歩いてみて」
み「あ、はい!わかりました!……こんな感じですか??」
ゆ「うん、そう。そんな感じでしばらく歩いてみて」
(カシャ、カシャ)
みN:初めての撮影。それは思っていたほど難しくはなく、とても楽しいものだった。
ゆ「ほら、見て。」
み「うわぁ、凄い!!本当に風景の一部みたい!!ちょっと人が入るだけでこんなに雰囲気変わるんですね!!」
ゆ「うん、誰もいない風景もいいけどさ、やっぱり、誰かが歩いてるのも素敵だと思うんだ。山とか海とは違ってさ、道っていうのは、誰かが歩んでいくものでしょ?だから、そんな、誰かの歩んでく道っていうのを今回は撮りたかったんだ」
み「ふふふ」
ゆ「ん?なんか変なこと言った?」
み「いやぁ、先輩の考え素敵だなぁって。先輩の撮る写真が、どうしてあんなに綺麗なのかわかった気がします」
ゆ「小鳥遊さんはさ、俺の写真のどんなとこが好きなの?」
み「なんていうか、先輩の写真って、見慣れたところのはずなのに、とってもあったかくて、優しくて、そして幻想的なんですよね。意外な一面を見れるというか、新しい面を知れるというか、そんな新鮮なところがとても好きなんです!」
ゆ「あ、ありがとう///」
み「碓氷先輩、もしかして照れてます?」
ゆ「いや、そんなことない」
み「やっぱり照れてますよね(笑)可愛い」
(カシャ)
み「え?今、撮りました?」
ゆ「小鳥遊さんの笑顔の方が可愛いよ、ほら」
み「ちょっと!やめてください///」
ゆ「あ、小鳥遊さんも照れてる」
み「照れてません!」
ゆ「小鳥遊さん、前にさ、なんで私にモデル頼んだのかって聞いたことあったよね」
み「ありましたね」
ゆ「あれさ、実はもう一つ理由あるんだ」
み「え?」
ゆ「俺の作品見てるときの、小鳥遊さんの笑顔、遠くからしか見たことはないけど、あの横顔がとっても優しくて心に残ってるんだ。やっとちゃんと見れた」
み「………?!?!」
ゆ「嬉しかったんだ。そんなふうに俺の作品を見てくれる人がいるってことが」
みN:先輩はとても純粋な人なんだな……
ゆ「あ、小鳥遊さん。ちょっとじっとしてて」
み「え?!な、なんですか?」
ゆ「髪に葉っぱ、ついてる。取るから、動かないで」
み「え、本当ですか?すみません、お願いします」
ゆ「はい。取れた」
み「ありがとうございます……あの、碓氷先輩??いつまで……その、触ってるんですか?」
ゆ「あ、ごめん...小鳥遊さんの髪、凄くサラサラで綺麗だから、写真撮った時に映えそうだなって思って」
み「!?!?////」
みN:この人……かなりの天然タラシなのかもしれない……
--- 間 ---
みN:数ヶ月後、先輩の作品はまた、賞をもらった。展示会に飾られたその作品を見ながら、私はなんだか、こそばゆい気持ちだった。
ゆ「小鳥遊さん」
み「碓氷先輩!入賞、おめでとうございます!」
ゆ「ありがとう、小鳥遊さんのおかげだよ」
み「そんな!私は何も。碓氷先輩の力ですよ!!」
ゆ「やっぱり小鳥遊さんに手伝ってもらって正解だった」
み「……私こそ、先輩に声かけてもらえてよかったです。いつも見てる先輩の写真の中に、自分がいるなんて……なんだか、新しい自分に出会えたみたい」
ゆ「小鳥遊さんさえ良かったら、またモデルやってくれるかな?」
み「喜んで!」
みN:それから私は、何度か先輩の作品を手伝った。その度に私は、自分の知らない自分を見つけられるような気がしたし、先輩の色々な一面が見られるのが嬉しかった。多分私は、先輩の作品だけじゃなくて、碓氷優那という一人の人間に、魅力を感じ始めていたのだろう。
--- 間 ---
みN:「最後の作品を撮るから、手伝ってほしい」そう先輩に呼ばれたのは、お互いに学年が上がり、先輩がもうすぐ卒業を控えた春の日だった。
み「え!最後って……たしかにすぐ卒業かもしれませんけど、卒業してからだって……もしかして碓氷先輩、写真やめちゃうんですか??」
ゆ「やめないよ。でも、小鳥遊さんに手伝ってもらうのは最後。」
み「あ……」
みN:わかってる。いつかは終わりが来るって。そんなにずっと先輩の手伝いができるわけじゃないってことはわかってた……そもそも、私がずっとモデルをやってたとこが不思議な話だったんた。
ゆ「えっと、勘違いしてほしくないんだけど、小鳥遊さんのモデルがダメとか、そういうんじゃないんだ。俺さ、卒業したら、海外留学するんだ」
み「海外留学ですか?」
ゆ「うん。俺、カメラマンになりたいんだ。世界中いろんなとこ飛び回って、自分だけの作品をもっともっと撮りたい。だから、そのための第一歩として留学するんだ」
み「素敵です!!もっとたくさん、碓氷先輩の写真が見られるんですね!!だったら私、プロになった碓氷先輩のファン第1号になります!!」
ゆ「ありがとう、小鳥遊さん」
みN:夢を語る碓氷先輩は、とても輝いていた。先輩と過ごせる時間はもう、残りわずかだった。
--- 間 ---
みN:最後の撮影だから、と今回は少し遠出をした。地元では見られない一面の桜が、目の前に広がっていた。
ゆ「小鳥遊さん、桜の下をゆっくり歩いてみて」
み「はい」
(カシャ)
ゆ「そうだなぁ、雨が降ってくるのを確認するかのように、ちょっと手を伸ばして?」
み「なるほど、桜の雨ってことですね!」
ゆ「うん、そう(笑)」
み「それってめちゃくちゃ綺麗な響きですね!」
ゆ「ねぇ、小鳥遊さん……そのまま、振り返らずに聞いててね」
み「……?はい。」
ゆ「最後の作品はさ、絶対この場所で撮ろうって決めてたんだ」
み「春だから、ですか??」
ゆ「それもあるけど……今回はね、風景じゃなくて別のものを撮りたかったから」
み「別のもの?」
ゆ「だめ、振り返らないで聞いてって言ったでしょ?」
み「あ、すみません」
ゆ「今回の作品タイトルはね、『美桜』」
みN:一瞬、聞き間違いかと思った。
み「え?それって、私の名前……」
(カシャ)
ゆ「小鳥遊さん、君のことが、好きなんだ」
み「せん、ぱい?」
ゆ「初めて君を知ったその日から、、、君を知れば知るほど、その気持ちは大きくなるばかりだよ」
み「碓氷先輩……」
みN:私はゆっくりと先輩に近づく。そして、そっと先輩のカメラを下ろす。
み「そういう話はレンズ越しじゃなくて、ちゃんと目を見て言ってください」
みN:先輩の頬はほんの少し、桜色に染まっていた。
ゆ「好きだよ、小鳥遊さん」
み「私もです、先輩!!」
ゆ「美桜って、呼んでもいい?」
み「はい!」
ゆ「美桜、俺のことも名前で呼んで」
み「ゆ、優那くん///」
ゆ「必ず帰ってくるから、その時はまた、一緒に桜を見に来ようね」
み「はい!」
みN:私と先輩の最後の作品は、二人の心の中にいつまでも輝き続ける。
Fin.
【キーワード】恋愛・学園・2人・男1・女1・schön Ton・シェントン
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