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『月明かり』作者:のどか

登場人物

ゆうこ(女)

子供(女)

ゆうこの母(子供と兼役も可)


〈story〉


ゆうこ:これは、私がとある初夏の夜に、不思議な体験をしたお話。この日私は大学時代の友達と女子会をやってたんだけど、うっかり終電を逃しちゃって。それで、家まで歩いて帰ろうとしてたら、土手に女の子が体育座りしてたの。電車もない時間に女の子が外に1人で居るなんて、心配じゃない?だから声を掛けてみることにしたんだけど...。



ゆうこ:ねえ、あなた...こんな時間に何してるの?


子:...え、もしかしてあたしに言ってる?あたしが見えるの?


ゆうこ:うん、見えるけど...ってまさかあなた幽霊!?


子:えへへ、実はもう死んでるんだよね。


ゆうこ:なるほど、だから裸足で体育座りしてたのね...っていやいやだから!私今まで霊的なの見えた事ないのになんで見えるのよ!?


子:それは私にもわかんないよ。お姉さん初めて見る人だもん。生前の記憶にもないし。


ゆうこ:霊ってやっぱり生前の記憶あるもんなの?


子:なんとなく覚えてるよ。まあ、自分が覚えてない出来事がどのくらいあるかなんてわかんないんだけどね笑


ゆうこ:それもそっか。ていうか、成仏しないの?


子:それが、何故か出来ないんだよね〜。


ゆうこ:え?ああいうのってそろそろ時間が来たみたいだ、とか言いながらふわふわ〜っと空に登ってくんじゃないの?


子:ああそれフィクション。ソースは私!


ゆうこ:フィクション!?


子:ま、死んだことない人が成仏シーンを書こうとしたらそんな演出にもなるよね〜。


ゆうこ:は、はあ...。


子:てなわけで、ここ2年くらい目的無く地上をさまよってるかなぁ。


ゆうこ:そんなに!?それに目的も無く、って...。


子:そうなの。あたしもね、死ぬまでは成仏出来ないのはこの世に未練があるからだって思ってた。けど実際死んでみたら全然そんな事ないの。もう一度会っときたいほどの親友が居る訳でもない。突然あたしが消えて立ち直れずにいる彼氏が居る訳でもない。家族だって、あたしが居なくなっても、今はもう前を向いてる。未練なんて無いと思うんだけどなあ...。


ゆうこ:なるほどねぇ...。


子:私的には、この世で誰にも気づいて貰えない幽霊で居るよりは、そろそろ天国に行って楽しく過ごしたいんだけどさ笑


ゆうこ:思い当たる節はもう無いの?思い出の場所とか。


子:覚えてるものは一通り回ったよ。幽霊って凄いんだね、疲れないし眠くもならないの。

おかげで2週間で関東全域制覇出来ちゃった笑


ゆうこ:それでも成仏出来ないんだ...。


子:ところでさ、お姉さんはこんな時間にこんな所で何してたの?


ゆうこ:ああ、私?友達と飲んでて終電逃したから歩いて家に帰ろうとしてたとこ。


子:いいなぁ、飲み会とか行ってみたかったかも。


ゆうこ:やだ、もしかして未成年?


子:え?うそ、そんなに若く見えるぅ?生きてれば来月24になってたよ?


ゆうこ:ほんと?若すぎない...?高校生くらいに見えてたわ...


子:そういうお姉さんはいくつ?


ゆうこ:女性に年齢聞く時は気をつけなさい?まあいいわ、今年28。


子:あ、まあまあいい歳だ。


ゆうこ:なんですって??


子:あはは、ごめんなさーい


ゆうこ:全く...ねえ、どうせ暇なら朝まで話さない?私明日は仕事休みだし。


子:いいね〜。話そ話そ!じゃあまず手始めに軽く自己紹介と、恋バナは必須で!


ゆうこ:ほんっと若い子って恋バナ好きね笑いいよ、付き合ってあげる。


ゆうこ:(ナレーション風に)こうして話し始めてどのくらい経っただろう。月はとうの昔に沈み、いつの間にか、東の空が少しずつ明るくなってきていた。


ゆうこ:すごく気が合うね!


子:それな!昔から友達だったみたい!


ゆうこ:今日がはじめましてなのにね!


子:実はゆうこちゃんと知り合いだったのかな?


ゆうこ:ふふ、なんか有り得そうだよね、でもかなみちゃん、私のこと覚えてないんでしょ?


子:うん。


ゆうこ:だよね〜、私も心当たりないもの。さてと、そろそろ家に帰ろうかな。あ痛たたた、ずっと地べたに座ってたから腰が痛い...また今度ゆっくり話そうね!...って、え!ちょっと!


子:ん?何?どうかした?


ゆうこ:どうかしたも何も、かなみちゃん透けてきてるよ!


子:え!?まじ!?...まじじゃん。


ゆうこ:なんでまた急に...。あ、もしかしてさ...


子:なになに?


ゆうこ:さっきは未練なんて無いって言ってたけど、本当はこのままじゃ寂しくて、心の奥底で成仏を拒んでたんじゃない?


子:え?


ゆうこ:特定の誰かが恋しくて成仏出来なかったんじゃなくて、実は誰かともう一度思いっきり話したくて成仏出来なかった、ってこと。


子:それで、今日こんなに楽しく話せたから成仏出来るってこと?


ゆうこ:そうなるね。なんで私と話したことで果たされたのかはよくわかんないけど。


子:ほんとそれ...何でだろうね?


ゆうこ:まあ、これで無事に成仏できるなら良かったじゃん。これからも元気でね!...って、幽霊に元気も何も無いか笑


子:そうだね、それあたしのセリフだよ笑ゆうこちゃん、元気でね!


ゆうこ:うん、ばいばーい!


ゆうこ:一晩私と喋り通して成仏して行ったかなみちゃん。正体が明らかになったのは、2ヶ月くらい後、ちょうどお盆に帰省したときでした。


母:ねえゆうこ見て見て、昔のアルバム!押し入れの整理してたら出てきたの!

ゆうこ:うわあ懐かしい!20年くらい前のかな?...え?この人...ねえお母さん、この人誰かわかる?


母:ん?えーっと、誰だったかしら...あ!思い出した!昔向かいのアパートに住んでた方だわ!この写真は...(紙ペラ)そうよね、ちょうど20年前よね。一緒にこの写真を撮った後すぐに引っ越してっちゃったのよ。この方娘さんが1人居てね...あ、ほらこの子。ゆうこの4つ下で、この辺で1番歳の近い子供だったからよく一緒に遊んでたのよ?


ゆうこ:へえ...そうだっけ...。


母:昔の話だもの、覚えてなくても無理ないわね。確か名前は...かなみちゃんだったかしら。


ゆうこ:え、かなみ...?


母:ん?どうかした?


ゆうこ:い、いや、なんでもない。


母:ふぅん。じゃ、今からお母さん夕飯作るから、呼んだら降りてきてね。


ゆうこ:はーい。


ゆうこ:なんだ、昔からお友達だったんじゃん、私たち。ねえかなみちゃん、そっちはどんな感じ?


いつか私もそっちに行った時は、また楽しく話せるよね...?


Fin


キーワード:日常・3人・女3・のどか

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