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『キックオフ』作者:SHOWtaRAW

登場人物

・松本蒼太(まつもとそうた) ♂

梓西高校サッカー部のFWでエースストライカー

自由奔放な性格でいつも明るい


・上田翔(うえだかける) ♂

蒼太と同じく梓西高校サッカー部、ポジションはボランチでチームの司令塔

常に冷静だが口調は優しい



蒼太N |翔、見てるか?...俺たちの夢の場所に、今俺は立ってるぞ...

あれからもう、5年も経ったんだな...

これから始まることへの高揚感と緊張感で、あいつのことを思い出す

(場面が過去に戻る)



翔 |なあ、蒼太...もし、さ...俺が部活辞めるって言ったらどうする?


蒼太|は?そんなのダメだろw、1年後には高校最後のインハイなんだぞ?お前抜けたらうちのチーム成り立たねぇよw。と言うか急にどうした?お前らしくもねぇw (呆れたような笑い)


蒼太N|俺たちは梓西校サッカー部の部員で公立校では珍しく強豪と言われる。今年はインターハイも狙えるんじゃないかと評判も高い世代だ。

俺はトップフォワードでエースストライカー、翔はボランチでチームの司令塔、俺と翔のコンビは最強で最高だ。翔が抜けたら正直、チームとしてインターハイ予選を勝ち上がるのは難しいだろう。


翔|...俺らしくねぇか、なあ...俺らしいってなんだ?(一呼吸置いて)

あー、いや、すまんwそうだよな、悪い、忘れてくれw(誤魔化すような笑い)


蒼太N|この時、翔のはぐらかすような笑いに気付いていれば...その1週間後に翔は俺の前から姿を消した


蒼太|あいつ、ほんとに部活やめやがって...

し、か、も!学校までやめやがって!中学からずっと同じチームで今までやってきたのに!何でなにも言わずにいなくなったんだよ...


蒼太N|俺はそれから僅かな空き時間を見つけては翔を探した、一言文句を言いたかったからだ。

部活帰りによく二人で立ち寄った本屋、翔が大学生に混ざって練習していた市営グラウンド、思い当たる場所は全部行った。どこを探しても翔の姿はなかった。

そんなある日翔の事で上の空だった俺は部活中に足を捻挫して、大会も近いということもあり監督の指示で大事を取り病院に来ていた。

そこで俺は...翔を見つけた。


蒼太|翔...?(静かに語りかけるように)


翔|え、蒼太?お前、なんでこんなとこに...

ってかお前足...何した?まさか骨折じゃないよな?


蒼太|部活中に...軽くだけど、足ひねって


翔|お前、どうせ部活中に考え事でもしてたんだろ?...全く、気を付けろよ?冬の選手権も迫ってるんだからさ


蒼太|誰のせいだと思ってんだよ、お前こそあと3ヶ月で選手権だってのにいきなり消えてんじゃねぇよ、なんで何も言ってくれなかったんだよ!相談のひとつもしてくれてもよかったろ!?(徐々にヒートアップしていく)

俺が...俺がどんだけ心配したと思ってんだよ!


翔|いきなり消えたのはほんとにごめん。

...こんな姿見せたくなくてさ


蒼太N|こんな姿見せたくない?ってかそういえばこいつこんな痩せてたか?

肌も妙に青白いし、まるで...


蒼太|翔、お前まさか...なんかの病気なのか?


翔|まあ、そんなとこだ...


蒼太|......


翔|なあ蒼太、病室まで戻るのに、肩...貸してくれよ


蒼太|お、おう


蒼太N|一緒に歩いてみて気づいた。

翔、ただ歩いてるだけなのに辛そうだな、体力...相当落ちてんだろうな。翔の病気って一体...


翔|おーい、蒼太ー?...病室着いた、個室だぜ、凄いだろ


蒼太N|俺はゆっくりとベッドに座る翔に意を決して聞いてみた


蒼太|翔の病気って...


翔|白血病...もう助からないってさ(諦めたような笑い)


蒼太|......


翔|お前には...こんな姿見せたくなかったんだけどな(苦笑い)


蒼太|こ、これから!部活終わりとか!オフの日とか来れる時には来て学校であった面白い話とかする!......来ても、いいか?


翔|もう、バレちゃったしな...うん、楽しみにしてる


蒼太|任せとけ!(満面の笑みっぽく)


蒼太N|それから俺は時間がある時には翔の所に来てその日あった面白かったこと、練習法の相談、色々な事を話した

翔の所に来はじめてから1ヶ月くらいたった頃だっただろうか...


蒼太|そんでさ、飯田のやつまた綾瀬に告って振られてんのwあいつも懲りねぇよなw


翔|何回目だよw確か最初の告白が1年の夏休み前だったよな、ここまで来たら報われて欲しいな...(微笑む感じで)


蒼太|......そ、そうだ!あとさ!


翔|...


蒼太|翔?


翔|蒼太...もう、ここには来なくていいから...

そろそろ大会も近くなってきたし練習しなきゃだろ?


蒼太|いきなりどうしたよw大丈夫だって!これでもちゃんと練習はこなしてるからさ!


翔|あー、言い方変えるよ...もう来ないでくれ


蒼太|は?なんだよその言い方、練習の合間ぬって来てやってんだぞ?

...ッ!


翔|来て、やってる?はは...なんだよそれ、同情かよ、憐れみかよ、俺は来て欲しいなんて1度も頼んでねぇよ!


蒼太|翔...


翔|なあ蒼太...分かるか?夜、目を閉じたらこのまま一生、目覚めないんじゃないかって、怖くて...夜眠れない気持ちが!

俺とは違って翔や皆には明日がある...未来がある!なんで俺だけ...!これからだったのに!やりたい事も目標も夢もあったのに!悔しかった、のうのうと生きてるだけの奴らがいるのになんで俺だけって...

蒼太の話しを聞くのがずっと苦しかった!辛かったんだよ!何より、こんなことを考えてる自分が嫌だった!悔しくて!苦しくて!辛かったんだよ!


蒼太N|翔がここまで感情をあらわにしたのを初めて見た


蒼太|分かった...もうここには来ない

翔、お前の気持ちに気付いてやれなくてごめんな......じゃあな


翔|蒼太...ごめん(蒼太が帰ったあとのひとりごと)


蒼太N|それから3週間後に...翔は死んだ

あれから1度も翔には会わなかった

葬式で翔のお母さんから手紙を受け取った

その手紙にはこう書かれていた

「蒼太へ(手紙の最初は蒼太が読む)」


翔N|まずは蒼太に謝りたい、あの日のことほんとにごめん、蒼太が来てくれてた事が心の支えになってたんだなって、今になってわかったよ。直接は言えなかったし、遅くなったけどありがとう。

蒼太とは小学校の時の大会で初めてあったよな、その時はお互い別のチームで、技術は下手な癖にやたら得点決める凄いやつがいるなって思ったよ。それから中学まではずっと敵同士で、俺の中でボジションは違えどライバルみたいな存在だった。

それが高校では同じチームでさ、びっくりするほどプレーが噛み合ってこいつとならインハイも行けるなって思ったし、事実インハイ優勝も夢じゃないくらいのチームになった。

だからこそその時に一緒にプレー出来ないことが悔しい。梓西校サッカー部なら俺が抜けてもインハイも狙える、俺が保証する。

そのために色々まとめたノートを渡しておく

役立ててくれ


蒼太|おばさん!翔からノートも預かってませんか?


蒼太N|ちょっと待っててと言っておばさんが持ってきてくれたノートにはチーム1人1人の長所と短所、おすすめの練習メニューがびっしりと書いてあった


蒼太|ん?俺だけ別紙がある?


翔|蒼太、お前にはスタミナもダッシュ力もキック力も突破力、得点力もある、特にゴールへの嗅覚が突出してる、これは先天的なもので言わばセンスだ。ただ蒼太にはテクニックが無さすぎる、毎日ボールに触れ、ボールタッチを磨け、ドリブルを鍛えろ、そうすればプロに、いや世界でだって戦えるプレイヤーになれる!そのためにはまずインハイ優勝からだ!

俺達の夢、ワールドカップのピッチにたって日本を優勝させるって夢、蒼太に託した。


蒼太N|読んでいるうちに涙が溢れてきて止まらなかった


蒼太|翔...任せとけ!お前の夢、思い、俺が連れてってやる!(泣きながらも翔を笑顔で送るように)


(場面が現在に戻る)


蒼太N|翔ごめん...インハイ、結局ダメだったわ(少し申し訳なそうに笑う)

でもそれから俺!毎日死にものぐるいで練習して今、ワールドカップのピッチに立ってるぞ...試合が始まる、緊張でうるさいくらいに心臓が響いてる


翔|蒼太、頑張れ!


蒼太N|翔の声がしたような気がした...


蒼太|翔、見ていてくれ...笛が鳴る、さあ!キックオフだ!


Fin


キーワード:学園・シリアス・二人・男2・SHOWtaRAW

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