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『背負うべきものは』作者:schön Ton(シェントン)


N・・・ナレーション

ミ・・・ミツキ。友人のアラタの意思を継いでヒーローとして頑張っていた。心優しい少年。

サキ・・・ミツキとアラタの幼なじみ。幼いころに両親を亡くす。



N:自分の中で、何かが崩れる音がした。

その瞬間、初めてミツキは、自分の心の限界を知った。無理だ。自分には無理だ。向いていない、できない。でも辞めることはできない……


そう思いながら耐え続けた、その結果がこれだった。


ミ「ごめんアラタ、君の使命を代わりに果たそうと思った。君を取り戻そうと思った。でも……やっぱり僕には無理だったよ、そもそも最初から向いてなかったんだ」


N:憧れのヒーローとして活躍し始めた友人は、志半ばで闇に支配され、人ならざるものとなった。その時、ミツキは決意したのだ。大切な友人を必ず取り戻す、彼が守りたかったものを自分が守る、と。でも…


ミ「これで、これでいいんだ……」


N:ミツキの髪をそよ風が優しく揺らす。彼の前には、澄み切った青い空と……どこまでも続く、大きな街並みが広がっていた。そこは、アラタと別れを告げることになった場所。街のシンボルの鉄塔の……上。ミツキは虚空へと一歩を踏み出そうとする。


サ「何してんの?」


N:後ろから静かな、でもはっきりとした声が聞こえて来る。


ミ「……」


サ「ねえ、何してんのって聞いてるの。その足、どこに踏み出すつもり?」


ミ「……サキ。どうしてここに?」


サ「質問してるのはこっちよ。ねえ、あなた、まさかとは思うけど……死のうとしてたわけじゃないわよね?」


ミ「……」


サ「なんで黙るのよ。ちゃんと答えて」


N:ミツキは大きく息を吐くと、誤魔化すのは無理だと悟ったのか、諦めたように口を開いた。


ミ「そうだよ。死のうと思ったんだ」


サ「…なぜ?」


ミ「僕にはさ、無理だったんだ。ヒーローなんて。ダメなんだよ、戦えないんだよ。こんな自分じゃ周りを危険に晒すだけなんだ。だから……(絶望し、勢いがない)」


サ「だから?だからなんだっていうの?ヒーローに向いてないから死ぬの?そんなのおかしいじゃない」


ミ「……僕は、世界を守るために、今まで沢山の闇堕ち人を倒してきた。最初はさ、彼らが人々を苦しめてる原因だと思ってた。でも、違った。本当は苦しんでいる人達は、闇堕ち人自身だったんだ」


N:闇堕ち人、それは世界を壊し、人々を苦しめて回る。そんな悪の存在だった。彼らによってミツキは大切な家族を失い、友を失った。しかし、その闇堕ち人は……。


ミ「闇堕ち人は、人間そのものだった。彼らは人間の心の弱さによって生まれる。もともと人間なんだ。母さんも父さんも、君の叔母さん叔父さんも……アラタも……みんな闇堕ち人に攫われたんじゃない、彼ら自身が闇堕ち人だった」


サ「……うん」


ミ「闇堕ち人はさ、元には戻れない。倒すしかない。僕は、みんなを助けるつもりが、大切な人たちを奪い続けてきたんだ……そう気づいた時、僕は闇堕ち人を倒せなくなった」


N:例え、大切な人であろうと彼らを倒さなくては、別の人が犠牲になる。そうわかっていても、ミツキは戦うことができなかった。


ミ「ヒーローとしての役割を全うできない僕には生きる価値なんてない。」


サ「…何馬鹿なこと言ってんのよ。あんたにヒーローが向いてないことなんて、最初からわかってたじゃない。あんたは優しすぎるのよ、闇堕ち人の真実を知って戦えるはずがなかったのよ」


N:ミツキは優しい子だった。引っ込み思案で、子どもの時からいつも、アラタとサキの後をついて回っていて、争い事が大の苦手で、でも、誰よりも人の心を思いやれて……そんなミツキが突然ヒーローになると言ったのは、ヒーローとして活躍していたアラタが唐突にミツキの目の前で姿を消した時からだった。


ミ「それでも僕はやらなきゃいけなかった!!アラタと約束したんだ!!みんなを救うんだって!!アラタの代わりに……そして決めたんだ。必ずアラタを助け出すって……」


サ「じゃあ、なんで死のうとなんてすんのよ!約束守れてないじゃん!!」


ミ「だから!僕には無理だったんだ!!そもそも、闇堕ち人をどうやっても助けることができないとわかって、それで僕に何ができる?!どうしようもない!!」


N:ミツキの中で今まで溜まっていた想いが溢れ出す。誰にもいうことができず、大きくなっていたそれは、止まることもできず、ただただ溢れ出す。


ミ「辛いんだ!みんなからの期待が!それに答えられないことが。怖いんだ……みんなからの失望が!!今の僕にはそれに耐えることなんてできない。このままだと僕まで闇堕ち人になってしまう……そうなる前に、僕は消えた方がいいんだ!!!」


サ「ふざけないでよ!!辛い?怖い?勝手に一人で色んなもん背負って、勝手に背負いきれなくなって、逃げようとしないでよ!!母さんも父さんも、アラタもいなくなって、その上ミツキまでいなくなったら……私は、私はどうしたら良いのよ!!」


ミ「サキ……」


サ「向いてないならやめればいい。倒せないなら、別の道を探せばいい。あんたにはヒーローは向いてない。でも他にできることはきっとあるはず……」


ミ「他に……できること?」


サ「そう、二人で探しましょうよ?闇堕ち人を倒さず、元に戻す方法を……」


ミ「……!!」


サ「一人で背負わないでよ。私だって、あんたとおんなじ。みんなを取り戻したいの」


ミ「サキ……ごめん……僕……」


サ「あなたが守ってくれた分、今度は私があなたを守るから」


N:ミツキの決意は今、一人のものではなくなった。背負うべきものは・・・決して一人だけのものではない。


fin



キーワード:ファンタジー・3人・男1・女1・不問1・シェントン

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