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『キセル屋とカラス天狗』作者:夕霧

【登場人物】

キセル屋(性別不問)

煙管を作って売っている兎。キセルの他に刻み煙草や香炉、お香を作っている。

煙管の修繕や掃除も受ける職人。

人望が厚く、世話焼き。べらんめぇ調でしゃべる、喧嘩っ早い江戸っ子。


烏天狗(男性)

物腰の柔らかい読書家の天狗。

キセル屋の顧客の一人。煙管と本を愛する天狗らしからぬ穏やかな性格

最近蔵書の整理に追われている。


+++


キセル屋「どうも、天狗の旦那!」


天狗「おお、キセル屋か。すまないな、こんな山奥まで出向いてもらって」


キセル屋「いえいえ!これもあっしの商売ですからね!どうです?煙管の調子は」


天狗「そうだな…。ご機嫌斜め、といったところかな。実は先日、落としてしまってね」


キセル屋「そりゃいけねぇ。ちょいと借りますぜ。どれどれ…(あちこちキセルを点検する)あー…こりゃ、ラウがちぃとばかり裂けてますね。掃除の前に交換しないといけねぇ。すぐに取り掛かりますぜ」


天狗「すまんな。よろしく頼むよ」


キセル屋「へい。では、ちょいとお時間いただきますよーっと」(てきぱきと修繕を始める)


天狗「…(キセル屋を眺めて)本当にお前はよく働くな。見ていてとても気持ちがいいよ」


キセル屋「そうですか?そう言っていただけると嬉しいもんですね。あっしはキセルが好きですから」


天狗「うん、お前の仕事ぶりを見ていると、キセルが好きなんだと伝わってくるよ」


(間を開ける)


キセル屋「こんなもんで、どうでしょう。旦那、ちょいと具合を確認してくだせぇ。手に馴染みますか?」


天狗「…ああ、申し分ない。ありがとう。さて、お代だが…今日は修繕もしてもらったからこれだけじゃ、足りないかな…。キセル屋。何か欲しいものはあるか?それをお代にしたのだが…」


キセル屋「おおっ、そいつぁありがてぇ!そうですねぇ…でしたら、荷車を一つ」


天狗「荷車?そんなものでいいのか?」


キセル屋「ええ。実は商売道具の荷車の車輪が一つ、ぽっくりと逝ってしまいまして…」


天狗「なるほど。そういうことなら、腕のいい大工を紹介しよう」


キセル屋「本当ですか!ああ、旦那。ありがとうございます!」


天狗「いやいや、こんな山奥まで出向いてもらってるからね。そのお礼さ」


後日


キセル屋「どうも!天狗の旦那!って…なんだ、この紙屑の山」


天狗「やあ、キセル屋。すまない、今蔵書の整理をしていて、ちょっと散らかっているんだ。何か用だったかな?」


キセル屋「ああ、そうそう。旦那に紹介してもらった大工に荷車を作ってもらったので旦那

に見せようかと…あと、お礼もと」


天狗「礼なんていいのに。でも、わざわざ報告しに来てくれてありがとう」


キセル屋「いいえ!…あの、旦那。あっしも蔵書の整理手伝いましょうか?」


天狗「おお!有難い!実は昨日からやっていたんだが、中々終わらなくて…」


キセル屋「どうせ旦那のことだ、出てきた本を見つけるたびに読み始めて時間がかかって全く進んでないってやつだろ?」


天狗「はは…ご名答」


キセル屋「では、そんな旦那にあっしから一つ。こいつを使ってくだせぇ」(背負っていたつづらを天狗に渡す)


天狗「これは…お前の商売道具をいれていたつづらじゃないか。いいのか?使っても」


キセル屋「ええ、もうだいぶ古くて、新しいものを用意したので、本を入れておくものにでも使ってくだせぇ」


天狗「もう何から何まで、本当にすまんな…」


キセル屋「いいえー。それよりも旦那、この綴じひもがとれそうになってて、紙がボロボロになってるのまで取っておくつもりですかい?」


天狗「もちろん!どれも絶版になってて二度と手に入らないかもしれない本ばかりなんだ!捨てるなんてもったいない!」


キセル屋「旦那の物持ちの良さは知っちゃいるが、これは…ちょっと…」


天狗「いいや、読める!紐が取れそうになっているなら、新しい紐と交換して結び直せばいいし、紙がボロボロになったら、そっくりそのまま別の紙に書き写してまた綴じればいい!」


キセル屋「書き写すって…こんな大量にあるのにかい?」


天狗「できる!やろうと思えばできる!」


キセル屋「…蔵書の整理は手伝いますが、本の書き写し屋ら修繕やらは手伝いませんよ。さぁて…まずは…」


天狗「うん?なんだ?」


キセル屋「ん?どうしたんです?旦那」


天狗「本の文字が薄くなっている!なぜだ?日光には当てていないのに」


キセル屋「古くて墨が薄くなったんじゃないんですか?」


天狗「いいや、そんなことが…もしかして」(手に持ったボロボロの本をバサバサとはたく)


キセル屋「だ、旦那!あんまり本を乱暴にするのは…」


(本の間からポロっと黒い蜘蛛のような妖が出てくる)


キセル屋「う、うわぁ!?なんだ!?蜘蛛か!?」


天狗「やはり、こいつの仕業だったか!本の虫め!」


キセル屋「ほ、本の虫?」


天狗「ああ、言葉を話せない妖で、紙に書かれた墨を食べていく。最終的に本をただの紙切れにさせる厄介者だ。まさか、こいつがいたとは…」


キセル屋「はぁ…あっしは初めて見ましたぜ」


天狗「基本、人のいるところにしか現れない妖だからね。しかし、私の蔵書まで食らうとは許せん!吹き飛ばしてやる!」


キセル屋「ええ!?旦那、ちょ、ちょっと待って…」


天狗「秘技・天狗風!!」


ブォン!!(天狗の扇から強い風が生まれ、本の虫と天狗のたくさんの蔵書が吹き飛ばされる)



天狗「ふぅ…山一つ分まで飛ばしてやったから、もう来ることはないだろう。さて、蔵書の整理に戻ろうか」


キセル屋「旦那…張り切ってるところ、水を差すようだが…もう本がねぇよ…」


天狗「うん?どういうことだい?」


キセル屋「旦那の天狗風で、全部吹っ飛んでった…」


天狗「え…(顔を真っ青にして)ああ…なんてことをしてしまったんだ…」


キセル屋「旦那。ひとまず拾えるものを拾っていきましょう。お手伝いしますよ」


天狗「すまない…」



【キーワード】ファンタジー・2人・男1・不問1・夕霧

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