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『桃太郎~明かされた秘密〜』作者:schön Ton(シェントン)

【登場人物】

桃太郎……桃に乗って流れてきた少年。動物と話せる力を持つ。


鬼 ……都より姫を連れ去った。人ならざる恐ろしい形相をしている。


姫 ……帝の娘。特別な力を持つために鬼に連れ去られる。


【場面説明】

都から連れ去られた姫を連れ戻すために桃太郎が、猿・雉・犬と共に鬼と戦う。

鬼の親玉に桃太郎がトドメを刺そうとする。


【ストーリー】

桃N:俺は、自分が何者なのか深く知らなかった。ただ、育ての親からは「桃から生まれた」ということだけ聞かされていた。桃から人が生まれるはずはない。もしかしたら俺は、人間ではないのかもしれない。そうであれば、俺の持つ不思議な力についても、納得がいくような気がした。俺が鬼を退治しようと思ったのも、もしかしたら……異形の存在に触れれば、自分について何かわかると思ったからだ。


(鬼ヶ島、桃太郎、鬼との決戦)


桃:何故だ…、何故その刀を構えない。


鬼:……。


桃:戦え!…くっ、貴様が動かないのならば俺が‼︎


姫:やめてください‼︎


桃:あなたは…?どうして俺を止めるんだ?


姫:私は、この国の姫。この方を倒してはなりません。あなたがここに来た目的は分かっています。けれど、私は戻りません。


桃:やはりあなたが……。何故そのようなことを申される。あなたは鬼にさらわれた。都も鬼のせいで大変な混乱に陥っている。それなのに何故、あなたが鬼を庇う?


姫:さらわれた……いえ、私は自分の意志でここに来たのです。都を混乱に陥れたのは鬼ではありません。私があのまま都に居れば、都は滅んでいたかもしれません。


桃:都が滅ぶ……?そのお話、詳しく、聞かせてはいただけないだろうか。


姫:……。


鬼:それについては、私から説明しましょう。


桃N:それまで、一言も言葉を発さなかった鬼が口を聞いた瞬間だった。彼の声は、想像していたよりもはるかに優しく、どこか懐かしい感じもした。


鬼:今からするお話は、信じがたいものかもしれません。信じるかどうかはあなたが決めてください。私は、今でこそ「鬼」と呼ばれていますが、もともとは帝におつかえする側近の一人でした。しかし、帝はとんでもない計画を企てていました。私はその計画に反対でした。そして、その計画を阻止するためにひそかに動き出したのです。


桃:とんでもない計画?それは一体なんだ?


鬼:天下統一です。帝は、日の本(ひのもと)すべてを我が物にするために、「伝説の竜」を操ることにしました。「伝説の竜」は、一瞬で世界のすべてを壊すほどの力を持っている、と言われています。幸いなことに帝は、この竜を操る力を持っていませんでした。しかし、その力を持った人間が近くに存在してしまった……。


桃:竜を操る力……。


姫:16年前、偶然にもその力を、帝の息子が持って生まれてしまいました。それが……私の兄でした。


鬼:私は、その力を帝が手に入れることを恐れました。そして、皇子が実の父親によって利用されることも……。そこで私は、何人かの信用できる仲間を募り、皇子を逃したのです。しかし、そのことはすぐに帝にバレてしまいました。そして……。


姫:彼らは帝により罰せられました。毒を……劇薬といわれる毒を身体中に浴びせられたのです。数人は何とか一命をとりとめましたが、もはやその姿は人の形を失っていました。それが、彼ら、鬼の正体だったのです。


桃:都を荒らしたといわれる鬼が、帝によって人工的に作られた鬼……お前たちは、都を守るために動いていたというのか。しかし、なぜ姫をさらう必要があった。力を持っていたのは皇子だったのだろう?


鬼:確かに、力を持っていたのは皇子でした。ですが、皇子を逃がした2年後、望まぬ奇跡が起きてしまったのです。私たちにとっては悲劇でした。生まれてきた姫も皇子と同じ力を持っていたのです。


桃:皇子と同じ……。


鬼:そう。私がそれを知ったのは、風の噂でした。けれど、万が一その噂が本当だったら……。私たちは、姫様が街に出られる日を狙い、さらうことにしました。信じていただけるとは思ってもおりませんでした。しかし、姫様はすでにその事実に気付き始めておられたのです。


姫:少し、おかしいとは思っていたんです。父は……帝は、私の持つ力に執着しておりました。初めは、珍しい力だから気になっているだけだろうと思っていました。でも、「伝説の竜」のことを、私が持つ力の大きさを、帝が話しているのを耳にしてしまったのです。私は決して、都には戻りません。私がいれば、帝は……。


桃:あなたが持つ力、それは何なんだ。「伝説の竜」を操る力とは一体……?


姫:「動物の言葉を理解する能力」です。


桃:……⁈動物の言葉、を……。


桃N:その能力には、どこか覚えがあった。


姫:その能力は、適正の者が持てば、生物を操ることもできると言われているんです。


鬼:その力を持つ者は、世界に多くは存在しません。


桃N:この時、俺の頭の中には一つの可能性が浮かんでいた。


鬼:何か、心当たりがあるのではないですか?


桃:……(考え込むような沈黙)


姫:心当たり……?


桃:一つ、聞いてもいいだろうか?


鬼:もちろん。


桃:逃したという皇子、彼は一体どうなったのだ?


鬼:私たちにも、皇子の消息は不明でした。しかし、今ははっきりと分かります。あなたももうお気づきでしょう。動物と心を通わせ、鬼を退治しに来た、あなたなら……。


姫:動物と、心を……?…まさか⁈


桃:ずっと、考えていたんだ。桃から生まれ、親も分からず、不思議な力を持っていた。俺は……果たして人間なのか、と。お前は俺を桃に入れて川に流した。何故なんだ。


鬼:都では、「カラクリ」というものが栄えております。物を冷やしたり、馬を使わずに人間を遠くに運んだり。あの桃はカラクリの一種です。小さな赤子をのせ、安全に川を渡れるようにと作られたカラクリなのです。帝の目をごまかし、誰かに見つけてもらえるようにと、あえて桃の形に作りました。


桃:……そうだったのか。


鬼:……あなたを一人にしたこと、ずっと、ずっと後悔しておりました。皇子、ご無事で何よりです。


桃N:鬼は、目に涙を溜めて、俺を見つめる。俺が鬼退治に来たのは、偶然などではないだろう。きっとこれは、俺の運命だったのかもしれない。


桃:教えてくれ、帝を止めるにはどうしたら良い。俺は、都のことは全く覚えていない。正直、興味もない。しかし、この世界には俺の大切なものが沢山ある。守りたいんだ。


桃N:この日俺は、自分の運命を知った。今まで、自分が何者なのか知らなかった。この力が何なのか分かっていなかった。望んでこの力を持ったわけでもない。しかし、これが俺の運命だとするのならば、俺はそれを突き進もう。ここから俺の本当の旅が始まるのだ。


Fin.


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